小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!
36. 大生徒会長
「全隊止まれ——ッ!!」
その先頭車輛の装甲の上に乗って指揮を執っていたのは、一人の少女だ。薙刀を構えセーラー服の上から学ランを羽織っている。威風堂々としたその姿は女サムライのごとし。だが、年だってオレとそう変わらない子が、なんで戦車の上に……?
日下部の言葉を思いだす。これが、沖姫々——生徒会長?
「撃てぇ————ッ!!」
だけど、そんな疑問は砲撃の風圧と爆音にかき消された。
「うぉっ! ちょっと、ちょっと待て! 危ないだろッ! ここに人が——」
「撃てぇ————ッ!!」
再び一斉射。戦車の砲塔は仰角を上げて巨大な悪魔に照準を合わせているから、オレに当たることはなかろうが、怖くないわけがない。鼓膜も痺れる。オレは慌てて戦車に駆け寄り、その装甲に這い登る。
「あ、あ、あ、危ないだろうがッ! オレに当たったら、どうする気だ!」
「知るか。貴様が勝手に立っていただけのことだろう。一般人には避難命令が出ているはずだ。貴様何者だ。場合によっては、拘束させてもらうぞ」
「オレの名前は——オザキキヨヒコ。記憶喪失だ! 気づいたら、空から落下してた!」
「ほう……先程ミラが引っ張ってきた……。面白い。外からの来訪者、か……」
近距離から響く悪魔の叫び声に、オレは思わず身をすくめる。
だけど、沖は、まるでかかってこいと言わんばかりに悪魔に対して胸を張り(驚くほど平坦だった)——それからオレを見て、不敵に笑った。
「私は沖姫々だ。この軍の臨時指揮官をしている」
「指揮官!? なんで? 大人は、いないのか——?」
「この年で悪魔と戦うのがおかしいか?」と、うながすように空を見上げる沖。
空に舞う魔女。入れ替わるように戦車の砲撃はやんでいた。
37. 大屈辱
沖が薙刀を振ると、戦車隊が後退を始める。
「あの魔女どもは、沖よりも年下だぞ。そして実際、世界を守るのは、あの魔女どもなのだ! 柳楽山からは自粛要請が来る。同士撃ちを避けろとな。そして我々は、ヤツらに従わねばならん……」
吐き捨てる横顔は、なんだか非常に悔しげだ。
てっきり、オレは、自衛軍は魔女たちの味方だと思っていたけど——。
「あいつらと、仲悪いのか?」
「当然だ」と断言する沖。「なぜ我々が自らの運命を、他人に任せねばならん。そもそもヤツらは、悪魔の手先かもしれん。魔女は悪魔と契約するもの。古来からそう決まっておろう? 悪魔が来る限り魔女たちはこの街を支配できるのだからな——」
そんな言葉が返ってくるなんて……まるで予想もしていなかった。
「どういう意味だ。じゃあ……これはあいつらの自作自演とか言うつもりか?」
「沖はそう睨んでおる。悪魔が現れて二十年。だが未だ天象儀が墜ちぬことに、都合良さを感じるのは、この沖だけか? この二十年、悪魔は飽きもせずに戦力を逐次投入しては、毎回、撃退され、魔女たちは魔女たちで防戦するだけ。本気で勝つ気があるのなら、戦力の一斉投入、敵策源地の殲滅——双方とも戦略はいくらでもあるというのに、これではまるで戦いのための戦いではないか。まるで魔女がこの世界で権益を得るため——」
「ふざけんなッ!」
予想もしていなかったから、思わず、後先考えずに本気で反論してしまう。
飛びかかりそうになったオレの胸元に、薙刀の刃が伸びる。それでも言葉を続ける。
「……あいつらが、好きで戦ってるっていうのか? あいつらの何がわかる!?」
「貴様にこそ、何がわかる? おぬし、記憶喪失なのだろう?」
38. 大抗議
そうだ。だけど。そんなオレでも、スピカたちが戦う様を見れば、彼女たちが命懸けで戦っていることはすぐにわかった。本当は戦いたくないことだってわかった。なのに、どうして、こいつはそれがわからないんだ?
「だけど……おまえらも、悪魔退治の役に立ちたいんだろう?」
「それが無理だというのも理解している。我々の兵器は悪魔に対して無力だ」
じゃあ、なぜ、戦っている、と言いかけて。
結局——こいつも日下部や学園に避難して談笑していた人間と同じなのだ、と理解する。魔女が自分を、世界を守ってくれるのは当然だと思っている。だから、彼女たちの気持ちなんか考えず、好き勝手なことをしていられる。街の人間たちが出店で買い食いをしているように、日下部が無責任にカメラを覗いて野次馬をしているように、こいつもまた、単に戦っているという名目が欲しいから、役にも立たない大砲をぶっぱなしてるにすぎないんじゃないか? 世界のことなんて本気で考えちゃいないんだろう!?
だけど、そう叫びたい気持ちをオレはグッと堪える。
それでも、世界を救うためには、コイツらの協力が必要だ。
「本気で……悪魔を倒したいとは思わないのか……?」
「どういうことだ?」
「あんたらの力を、借りたい。悪魔を倒すのに、必要なんだ」
「無用だ。じきに悪魔は倒れる。かあてんこおるの準備でもするのか?」
たしかに、ここまでの展開は前世をなぞっている。沖の言葉を待っていたかのように、悪魔が倒れた、記憶どおりに、街中に真っ赤なマグマがまき散らされる。
だが——まだカーテンコールには早い。
「悪魔は、もう一匹いる。二匹一緒に落ちてきたんだ。けど、ミラは一匹目で力を使い果たした。おまえらの助けが、必要なんだ」
「どういうことだ。ただの記憶喪失が、なぜそこまでのことを——」
その言葉を遮ったのは、地を揺るがす振動と轟音だった。
遠方で舞い上がった土煙の中から、再び、悪魔の咆哮が伊都夏市を包む。
高層ビルのガラスがビリビリと振動した。
それが何よりも雄弁に、オレの言葉を証明していた。
「なぜ——わかっていた?」
どうする。真実を話すには、時間がかかりすぎる。嘘でもいい、何かうまい説明が……。
39. 大出任せ
『ちょっと、オザキ!!』
悩む矢先に、スピカの声がした。ポケットに入れたままのスターリットからだった。
『アンタ、そこで何してんの! なんで沖なんかと一緒に!? 避難所に連れてってもらったでしょ! そこは危ないから——』
「……なるほどすたありっとか。それを通じて、最新の情報を知り得たのか」
都合よく解釈してくれる沖。オレはそれに乗る。
「……あ、ああ! そうだ! そのとおり!! わかるだろう。魔女は、今疲れきってる。このままじゃ、二匹目は倒せない。敵に近づけないんだ。だけど、目潰しがあれば……悪魔の視界さえ遮れば、勝機はあるはずだ!」
『ちょっと、なに勝手なこと言ってんのよ! そんなのなくてもアタシたちは——』
沖は、スターリットからのスピカの抗議は無視。目を閉じてほんの数瞬思案したのに、
「射撃用意! 目標、新たなる悪魔、弾種、煙幕!!」
と、薙刀を振る。すぐさま、戦車隊と、随伴する歩兵隊員が応答する。
突然の指示にも、何一つ、乱れたところは見せない。
まるでジャンヌ・ダルクに率いられた義勇軍のようだ。
自らの巨体によって巻き上がった粉塵の中から、身体を出そうとする悪魔。視界が晴れれば、すぐにでも天象儀へと向かうだろう。
「撃てぇ——ッ!!」
そこに戦車隊の放つ発煙弾が、一斉に殺到した。
まるで足下の大地が噴火でもしたように、悪魔を覆うようにして、真っ黒な煙が、入道雲のように立ちこめる。
『な、な、な……オザキ、あんたたち、何やってんのよ! 余計なことしないで!』
「ミラが疲れてるんだろう! 一匹目みたいにはいかない! 自衛軍と協力しろ!」
『そんなの、やってみなきゃわからないわ! 誰が好きこのんで沖なんかと……』
スピカの言い分もわかる。自分たちを嫌っている相手と協力するなんて御免だろう。
オレだって、さっきの沖の言い分には腹が立つ。
だけど、このままじゃ悪魔に勝てない。背に腹はかえられない。
40. 大進撃
「仮定の話はそこまでだ。今は言い争ってる場合ではない。ここは共闘すべきだ」
沖が割って入る。先程までの魔女に向けた悪意は、不思議なことにさっぱり消えていた。スピカにも、それが感じられたのか。スターリットの向こうで黙り込む。
「ミラじゃなきゃ、止めは刺せないのか?」とオレは聞く。
『近づけば、アタシでもやれる——。でも、誰かが注意を引きつけてないと』
「今なら、視界がない。悪魔はこっちが見えないだろ」
『でも、こっちも手探りよ。真ん中を探ってる間に、やられるわ』
つまり、場所さえわかればいい、と。簡単じゃないか。
「スターリットの場所はわかるんだよな。なら、オレが悪魔に近づいて、目印になる」
『な——アンタ、なにバカ言ってるの!? 何考えてるの!?』
「そういうことか。よかろう、オザキ。悪魔の近くまで送る」
「頼んだ!」と、オレが叫んだ時には、オレと沖の乗った戦車は、巨大な煙幕の雲に向けて走りだしていた。タンクデサントだ、ウラー!
『ちょっと、オザキってば!』
スピカの呼びかけは無視。というかキャタピラの音は思った以上に大きく、スターリットに耳を押しつけないと聞こえない。
『アンタ、バカ? 信じらんない……どういう頭してるのよ?』
「うるせ! いいから、悪魔に突っ込む準備しとけ! それとも怖くなったのか?」
『バカにしないで。死ぬような思いは、何度もしてきたわ。でも、それは魔女の役目よ。アタシたち以外がそんな思いしなくても——』
「一人でカッコつけんなっつーの!」
おまえは知らないだろうが、オレは知ってるんだよ。そう言って、おまえがどんだけ無理してきたか。無限軌道が唸りをあげ、戦車が、地上の入道雲に向けて進む。
煙幕に巻き込まれる直前で、停止。視界が狭く、小回りの利かない戦車ではここまでだ。
オレは戦車から飛び降りる。
「武運を祈るぞ、オザキ! 天佑を確信し突撃せよ!」