小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!
31. チャンスを下さい
で。気がつくと、また、あの真っ白な空間——天国にいた。
「あれだけタンカを切って出ていったのに、もう、帰ってきたんでちか?」
テレビに見覚えのある顔が映しだされた。神様(幼女)だった。面目ない。
「早い男は嫌われるでちよ」
何の話だ。幼女のセリフじゃねぇだろ。
「というわけで、もう、一度生き返らせてあげたんでちから、文句はないでちよね。アナタの人生は今度こそ、ここでおちまい。ジ・エンドとなったのでちた。ぱちぱち」
ぴんぽーん、という間の抜けた音が、テレビの中で鳴った。
「お友達のオオアリクイちゃんがお迎えにきたでち。あたちはいくでち」
え、ちょっと待って! せめてもう一度チャンスを! お願い!!
だけど神様(幼女)は無情で——ブツンと、電源を落とした。
拍子抜けするほど呆気なく、世界は静寂に支配された。
本当に、行ってしまったのだ——たぶん幼稚園に。
つまり、今度こそ、死が確定したってこと? あれだけ決心したのに……。
オレは彼女も救えず、自分が誰かもわからず、死ななければいけないなんて。
がっくりと膝をついてorzったオレ。その時。
「安心しろ」と、不意に頭上から声が降ってきた。
32. 今度の神様は……
「おまえに過去はない。オレが保証する。おまえの記憶が甦ることはないし、おまえの過去が何か物語上で重要な役割を果たすことは絶対にない。おまえにあるのは未来だけだ。だから未来は、おまえが選べ。お前が掴め」
さっきまでの舌足らずな幼女じゃない! ハードボイルドな声だった。
もしかして、オレに救いの手を差し伸べてくれる、ちゃんとした神様が現れたのか!
地獄に仏という心境で顔を上げる。そこに。ブラウン管の中に。
眉毛を描かれた犬がいた……。秋田犬だろうか。
期待した分、壮絶に脱力……。一体犬に何ができるのか。
「ユミが神様なら、オレが神様でどうしていけない? ……ああ。あの子どもだよ」
さっきの園児か。たしかに園児が神様でいいなら、犬が神様でも問題ない気はするが。
……でも眉毛はどうにかならないのか(笑)?
「——この眉毛はオレの誇りさ。オレの今は、全てここから始まった。オレの過去、オレの証明、オレの歴史、おまえにはない全てが、この眉毛にはある」
風格を漂わせ、きっぱりと告げる神様(犬)。
笑いたいバカは笑わせておけ。オレはオレの道をゆく。そう言っていた。男だった。いや、漢だった。……負けた。笑ったオレの負けだ。犬に負けた。眉毛に負けた。
33. 挫けぬ心を胸に走れ!
「まあ、オレのことはいい。おまえの話だ。それで、まだやる気はあるのか?」
その言葉とともに何もなかった空間に三つの扉が現れた。前回生き返ったのと同じ扉だ。
生き返らせてくれるってこと? ……この、眉毛が……オレを……?
「い、いいのかよ? ご主人様に怒られたりしないのか?」
「あいつも、本当はおまえに期待しているんだよ。おまえだったら、この世界を変えてくれるかもしれないって。なにせ、あんなふうに言った死人はおまえが初めてだからな。だけど、望みがデカイってことはハードルが高いってことでもある。あいつはやさしい子だからな。がんばれ、なんて、言えなかった。そんなふうにおまえを励まして、おまえが何度も何度も生き返って失敗し、絶望するのを見るくらいなら、いっそ……そう思ったんだろな。オレももうあいつと長い。言わなくても、考えていることくらい、わかるさ」
カッコよすぎる眉毛(犬)。
けれど、それは、同時にオレへの忠告でもあるんだろう。辛いぞ、と、そう簡単じゃないぞ、と言っている。やめた方がいい、と少なくとも神様の一人は判断したらしい。
それでもやるかと、この眉毛の神様は言っている。
たしかに、オレはただの人間だ。だけど、オレの望みはそんなにデカイものか? オレはただ、スピカに普通の人生を送らせてやりたいだけ。それくらいなら、ただの人間のオレだって、何回、死んでも生き返る覚悟さえあれば——できるんじゃないか?
「——そういうセリフは、誰もいないところでやるものだぞ」
なんてモノローグを呟いていたら、心を読まれていた。恥ずかしいことこの上ない。
「まあ、いい。どんな勘違いも、最後まで貫き通せば立派な真実だ。おまえの本気を見せてみるがいい。おまえが挫けない限り、おまえは何度でも生き返れるはずさ」
あ、ありがとう、眉毛!
——遠くから、あの闇が迫る音が聞こえる。
「それじゃあ、オレ、行ってくる。ご主人様によろしくな!」
オレは、はっきりと、自分の口で言って、走りだす。
扉は遠かった。
けど、オレは知っていた。どれだけの距離を走ればいいかわからない。けれども絶対に、辿り着くことはできる。挫けさえ、しなければ——。
34. Come Down
そうして、オレはまた伊都夏市の上空数千メートルに、生身の身体で放りだされ、そこで彼女と再会し——記憶をとり戻す。
「あんた名——」
「オレの名前は! オザキキヨヒコッ! しかし、記憶喪失なのでそれ以外のことは不明!
何を聞かれてもさっぱり全然わからないので質問タイム終了! ってことで——。
あ——————ッ!! あ、あ、あそこに悪魔が——————————————ッ!!
しかも悪魔は、二体重なってるぞ———————————————————ッ!!」
スピカと話していても埒があかないのは二度の経験でわかっている。もう、ここは一気にかっ飛ばして、ウヤムヤにしちまうしかない。怪しいと思いつつも、一応、オレの言葉を信じてくれることもわかったし。
そんなわけで伝えるべきことを、強引かつ一方的にしゃべって、オレは、前回同様ミラのスーパーアクロバット飛行で伊都夏大学園に、到着。
「なあ、ミラ。このスターリット、もうちょっと借りてていいか? オレが直接、スピカに返したいんだ。その、えーと。……直接お礼が言いたい——」
もちろん、嘘である。魔女たちと通信できれば、オレにも何かできるかもしれないと思ってのことだ。が……。大丈夫だろうか、ミラのあの能力の前では、こんな言い訳……。
「もみー! くんくん……うー、やっぱり嘘だ! 何か、企んでるね!」
やっぱりもみあげられた……どうする?
35. Commitment
「あとでちゃーんと、返してあげてね。約束!」
「え? 借りてて、いいのか?」
「悪いこと企んでるわけじゃないでしょ? そんならいいのさー。もしかしたら、何かの役に立つかもだし。じゃあね、生き残ったらどっかで会おー! ばびゅ——ん!」
前世の記憶どおり、効果音つきで飛んでいくミラ。
空から、煙を上げて悪魔が墜ちているのが見えた。
さて。街が危ない、火が迫る、帰ってきたぞうんこマン、なわけだが。
あいつらが二体だと伝えることができたが、伝えたところで、魔女たちが一体の悪魔で手一杯という事実は変わらない。知っていたから倒せるというものでもないのだ。
「このまま指くわえてて、たまるか」
もう、死ぬのはゴメンだった。死なせるのはもっとゴメンだった。
オレは〈伊都夏大学園〉と書かれた校門に、背を向ける。向かう先は——大通りだ。
オレはスターリットをしまい、全力で走る。
前世で屋上から見た街並みを思い出しながら、目指す場所に向かう。
入道雲のような黒煙と土煙を上げ、真正面から、悪魔の影が姿を現す。
そして、ビル群に反響する金属音。振り返れば、怪獣の侵攻を阻止せんと立ち塞がる戦車隊。捜していた連中と合流できたわけだが——オレは、自分の目を疑った。