special:スペシャル

小説版「スマガ」第1巻試し読み

小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!

21. 記憶持ってニューゲーム

 夢を見た気がする。だが、夢の中身は忘れてしまった。
 オレは、記憶喪失。上空ン千メートルを、紐なし、パラなしスカイダイビングしていた。
 混乱の中、滅びの呪文を唱えていると、突然、彗に乗った少女がやってきて、「じゃあ何なのよ。アンタの名前は? 教えて」と問いかける。
 その瞬間。
 唐突に記憶が戻ってきた。前回もこうして落下していたこと。目の前にいる魔女の名前が、スピカで、悪魔と戦っていること、二人でキスして死んだこと、オレは天国に行って、生き返って戻ってきたということ。
「……急にどうしたの? なんか変な顔。キモい」
 唐突に甦った記憶に戸惑っていると、そう言われた。
 キスまでした相手に言われると、結構グッサリくる言葉である。
「それより名前。ま、言いたくないなら始末しちゃうだけだけど」
 スピカの彗の先に光が灯る。まずい。撃たれたら死ぬ。死ぬと痛い。
 考えろ。前回はどうして死んだ。
 オレは「記憶喪失のただの一般人」なのに、悪魔と疑われ、あれこれ問答している間に、本当の悪魔がやってきて、しかもその悪魔は二体一組だったために、彼女たちは苦戦し、気がついた時には、オレはどうにもならないところまで落下していた。
 それを変えなければならなかった。まずは早急に身の潔白を証明し、オレが前世の記憶を持っていることを知らせて、悪魔についての情報を彼女に与えなければならないのだが、どうやって——。

22. 苦し紛れの記憶喪失

「アタシもあんまり暇じゃないからさ。さっさと終わらせちゃうわよ」
「げぇっ、ちょ、ま」と焦ったオレ、
「あ——————ッ!! あ、あ、あそこに悪魔が———————————————ッ!!」
 もう、ヤケクソ。渾身の力で叫びながら空を指さす。
「アンタさ、小学生? 今時誰がそんな手に——」
「あー、ホントだ。すげー! あんな遠くの、よく見つけたねー」
 いつの間にか、ミラも側に来ていたらしい。つられてスピカもそちらを眺める。
「マジ? ガーネット、ちょっと見てくれる? 方位300、高度75——くらいかな」
『——あ、はい。悪魔、確認しました』
 スターリットでガーネットと交信するスピカ。ほっとするオレ。どうやら、悪魔は前回と同じ位置から同じようにやってきているようだ。これが変わっていたりすると、さっきの記憶なんて、何の役にも立たなくなってしまう。
「ん。しょうがないか……。なーんか納得いかないけど、とりあえずアンタは白」
 全然、納得できてない顔だった。今日はとりあえず釈放してやるが、真犯人がお前だってことはわかってるんだぞって顔でオレを睨んでいる。
「で、アンタはなんで空から墜ちてきたの?」
「オレが聞きたい。オレ——記憶喪失なんだ」
「は? 何言ってるの?」

23. 攻略情報は既にある!

『スピカちゃん、いい? そろそろ出番よ。いつものように、上空で迎え撃つ——』
「ちょっと待った! ——それはまずい!」
 反射的に大声で割り込む。言い争っている場合ではない。
 いつものように、ではマズいのだ。たぶん。
「悪魔は、学習してるんだ。前回と違って、こっちの作戦が読まれてる。だから……」
「アンタ……記憶喪失じゃなかったの……?」
「それは、そうだけど!! オレには前世の記憶があって、今日をすごすの二回目で、だから、オレは、オレのこれまでは知らないけど、この世界のこれからは知ってるんだよ!!」
「……アタマ大丈夫? さっきから言ってることおかしいんだけど」
 前回、最期に見せてくれた表情はどこへ行ったのか、呆れたようにスピカ。何かヘンなモノを見るかのような目。いや、オレが逆の立場でもそうだと思う。だけど詳しく説明している時間はもうなかった。
「もみー!」
 ぎゃぁぁぁぁぁぁ!
 前回同様、ミラがもみあげに飛びついてくる。
「くんくん……うー、嘘をついてる匂いじゃないけど」
『……真偽を確かめる時間をちょうだい。まず悪魔の進路を変えるから』
 ミラの判定を受けて、スターリットからガーネットの声。
「地面に落とすの? こんなヤツの妄想、無視しちゃえば?」
『アリデッド先生の決定よ。嫌なら、スピカちゃんが交渉してね』
「……了解」
 会話の内容から察するに、どうも、半信半疑ながらも、オレの話を聞いてくれたらしい。

24. キヨヒコの名はキヨヒコ

 魔女たちが高度を上げる。傍らには、前回同様、スターリット。
『すぐ戻るわ。これ、スターリットっていうの。通信機。場所もわかるから持ってて』
「わかった。気をつけろよ」
『アンタに言われるまでもないわ。遠くから撃って天象儀への直撃を回避するだけの単なる時間稼ぎ。それより、アンタの言ってたことが嘘だったら、覚えてなさいよ?』
 かーる・つぁいす? 時間稼ぎ? と聞き返す間もなく、魔女たちの攻撃が始まる。迎撃地点が早かったのだろう。前回より、遥かに高い位置で、黄金の華が咲いた。
 オレはといえば無事を祈るしかない。
 三つの光が乱舞し獣の叫びがあがる。大空に、マグマの華が咲く。
『やたー!』と、スターリットからミラの歓声が聞こえている。やった——のか?
『安心してる場合? オザキを!』
『スーちゃん、オザキって誰?』
『オザキキヨヒコ。落ちてるあいつの名前』
 ——いや、だからオザキじゃないんだが——
『あ、忘れてた! キヨヒコ、待っててねー!』
 もう、オレの名前はオザキキヨヒコに決定らしい。が、まあ今はそんなことはどうでもいい。諦めた。既に地上は迫っていた。前世の記憶と大差ない距離だ。こんな高度で、果たして助けが間に合うのだろうか。これじゃ前回と同じで——なんて思考した矢先——。
「ばびゅ————ん!」とミラはもう、オレの側まで到達していた。早い! 速い!
「ミラちゃんのスピードは全てを置き去りにするのさ! まさに超特急! 別名シベ超!」
 いや、まて、それは置き去りにしすぎだ。
「っつことで、避難所に連れてくから。レッツらゴー!!」
「ぐおっ、が、ぁあぁあぁあぁあぁあぁあ—————!!」

25. 校門へ

 ミラの彗は、絶叫マシンもかくやという暴れ馬。無事、地表に辿り着いた時には、三半規管がいい案配にかき回されて、世界がぐるんぐるんに回っていた。
 辿り着いたそこは、〈伊都夏大学園〉と校門に記された学校らしき施設だった。
「今は避難所だけどねー」
 避難所……ていうか大学園って何? 大学院じゃなく? と思考を巡らした矢先。
 またも、悪魔の雄叫びが空を震わせる。
「おー、落ちてる落ちてる」
 ミラにつられて、空を見上げる。相変わらず、その姿こそ見えないもの、その身体から発せられた煙が、かなり近づいていた。
「ほいじゃ、ミラは続きがあるから」
「え? アレで終わりじゃないのか?」
「そんな簡単じゃないてばさー。目玉を潰さないと、終わらないよ。……あ、そうだ、スターリット返して。そいじゃね。ばびゅ——ん!」
 オレから星形バッジを受けとると、ミラは効果音つきで、青空へと戻っていった。

  1. 第一回
  2. 第二回
  3. 第三回
  4. 第四回
  5. 第五回
  6. 第六回
  7. 第七回
  8. 第八回
  9. 第九回

“大樹連司”先生の描く小説版「スマガ」全3巻も読もう!

ガガガ文庫「スマガ(1)」 ガガガ文庫「スマガ(2)」 ガガガ文庫「スマガ(3)」

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