小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!
1. SEEK YOU
CQCQCQ。CQCQCQ。
あの繋がってますよね? 聞こえますよね? 大丈夫、ですよね……
はじめまして、ですよね? 違ったら、ごめんなさい。
あの、今日は、お話があるんです。少しだけ、聞いてもらえますか?
あの、たとえば、なんですけど。一度過ぎてしまった出来事を、もう一度やり直したい。
そんなふうに、思うことってあります?
取り返しのつかないことなのに、あの日のあのことが恥ずかしくて、もう一歩も先に進みたくない、とか、そういうこと、あります? 私は……たくさんあるんです。
あなたは、どうですか? やり直したいと思うことありませんか? それとも——。ええと、なんだかすみません。偉そうでしたね。ごめんなさい。
聞いてくれて……ありがとうございました。
それじゃあ、またいつか、会いましょ——え? 私? ……そうですよね、憶えてないですよね。あ、気にしなくていいんです。そうじゃないと、おかしいし……。
だから……はじめまして。私の名前は……次に会った時で、いいですか?
その時、私のことを思い出してくれたなら——思い出して、くれますか?
2. Start The Muri-Game
夢を見た気がする。
だが、夢の中身は忘れてしまった。
気がつくと、空のまっただ中にいた。
マジで空の中だった。
耳元で風が轟々と鳴っていた。
文学的な表現ではなく、リアルに地上上空、恐らくは地上数千メートル。下には、普通に地面があって、大きな街が広がっていた。
海沿いの街である。中心部は、結構開発されてはいるが、緑も多い。季節は初秋なのだろう、柔らかな日差しに照らされ、紅葉が始まっているところもある。風光明媚な地方の中心都市ってところ。
観光にでも来たら癒されそうである——が、今のオレは観光中などではない。
物理法則は今日も絶賛営業中。オレは重力加速度m/S2で好評落下中。
加速、もはや誰も止めるのは不可能。逆さまのオレ。
癒されるどころか、普通にこのままじゃヤバい。
——ついでに記憶もなかった。
意味がわからなかった。
記憶喪失だけなら理解できる。主人公の設定としちゃ珍しくもない。
そりゃ人間生きていれば、卒業旅行中に犯罪組織に捕まって記憶を消され、気がついたらクールな美少女と戦わされて殺し屋に、なんてことくらいはあるだろう。
でもな。
気がついたら記憶を失ってて、上空ン千メートルって、一体、何だよ。
斬新な導入っていうレベルじゃねぇぞ。
3. 素敵設定とか素敵アイテムをオレに
どうする。
間違いなくこのままでは死ぬ。
何かないのか? この絶体絶命のピンチを救ってくれる〈素敵設定〉とか〈素敵アイテム〉とか持ってないのかオレ。実はサイボーグで空飛べるとか、青い石が光って反重力! とか……。
体をたしかめてみる。
だけど奥歯に加速装置もついてなければ、首にペンダントもないようだ。
打開策なし。詰んだ。どう考えても詰んだ。まじで死んだっぽい。
「バ——バルス!!」
絶望した! 一見さんお断りの無理ゲーに絶望した!
無理。こんなの無理! こんな展開、どう考えてもナシ! だから滅べ! 一回仕切り直しだ! 発作的に滅びの呪文を唱えだすオレ。わはは、世界なんて滅びてしまえ。さあ滅べ。滅べ。オレがラピュタの雷だ!(地面に落ちると潰れます、オレが)
「バルスッ!! バルスッ!! バルスッ!!」
刻一刻と迫る大地。一向に世界は滅びない。
だが、負けるもんか。まだオレのバトルフェイズは終了しちゃいないぜ!
「バルス、バルス、バールースー!!」
そして——。
「——何やってるの?」
そんなオレに声がかかる。
おお! この不条理展開から、ようやくオレを救ってくれる誰かが!
「もしかして、滅びの呪文? アンタ、オザキ? 思春期特有のアレ? 理由もなく世界を滅ぼしたくなるお年頃?」
と思いきや。なんだか、妙に冷たいツッコミ。手足をばたつかせて声の方に、顔を向ければ、そこには彗の上に仁王立ちになって一人の少女が飛んでいた。
「ま……魔女?」
4. 主人公・ミーツ・ガール
思わず、素直な感想が口をつく。
黒マントに黒帽子に彗。どう見ても魔女だ。
彗に跨るのではなく仁王立ちという点は違うし、それに、シワシワのお婆さんってわけでもない。乗っているのも、彗というか、おもちゃ屋さんで売ってる魔女っ子ステッキみたいにカラフルだし。だけど、やっぱり魔女である。
年の頃はオレと同じくらいだろうか。
真っ黒な三角の帽子から長い髪がこぼれる。帽子と同じ色の漆黒の外套の下には、学生服らしき服がのぞく。強い意志を感じさせる目が何より印象的。
それが真っ直ぐオレを——睨んでいる。オレ……何かした?
「そ。アタシは魔女で、アンタは悪魔。このセカイを滅ぼしに来たってワケ。
——ちょっと羨ましいわ。口だけじゃなく本気で滅ぼしちゃうんだから」
そうして彼女は彗の先端をオレに向ける。彗というより、まるで銃口を向けられた気分。
どうやら、何か早世したロック歌手あたりと勘違いされたらしい。
滅びの呪文なんて唱えてたせいか!? オレのバカ! 余計なことするから!
「——違う! んなわけあるかッ!! オレはただの一般人だ!」
「違うの? じゃあ何なのよ。アンタの名前は? 何でこんなところにいるの?」
「いや……それが、オレ、自分の名前、憶えてないんだ。記憶が……ないんだ」
気まずい沈黙。呆れたように彼女は言う。
「……つまりアンタは、上空ン千メートルからパラシュートなしで落下する、謎の記憶喪失の自称一般人、ってワケね」
そうそう。そのとおり。
「誰が信じるか」
全く道理だ。そんな一般人はいない。常識的に考えて。
5. 3人の魔女
「一般人は避難所にいなきゃダメなの。今、ここにいるは、アタシたち魔女か悪魔だけ」
「ぞでぃ……あっく……?」
文脈的に、アメリカの殺人鬼でも、アクシズ製の欠陥モビル・アーマーでもなさそうだ。悪魔と書いて、ゾディアックとルビを振るらしい。で……それがオレ?
「そ。悪魔のことね」
と頷いて勝手に納得する少女。いや、違うと抗議しようとした矢先、
『……スピカちゃん? 何かあったの? 予定位置に着いてないみたいだけど……』
唐突に、彼女の帽子がしゃべった。……のではなく帽子につけられた星形のバッジが、光の点滅とともに声を発していた。どうも通信機の類いらしい。
「あ、ガーネット、ゴメン。作戦中止。怪しい人物発見。悪魔かも」
『悪魔!?』と星形バッジが跳ねんばかりの悲鳴じみた声。
「いや、だからそうじゃないって——」
「オザキは黙ってて」オザキ言うな。
「それともキヨヒコ?」違うって。
いつからそっちのオザキになった。ていうかオザキから離れてくれ。
「うーむ、キヨヒコにしては、なんとゆーか、いささかもみあげ分が不足しているよーな」
もみあげまで引っ張られるオレ。うるさいわ、オザキでもキヨヒコでもないと——って?
「ってうおっ! また変なの出た!」
いつの間にか、もう一人増えていた。最初に現れて、今オレに彗を突きつけている彼女より、だいぶ幼い。小学生ってことはなかろうが、そうだと言われても信じる。ツインテールが、さらに幼さを印象づける。コスチュームは一人目の彼女と同じく三角の真っ黒な帽子に黒い外套、下に学生服、そして彗。こっちの子は、いわゆる普通の魔女的に、ちゃんと彗に跨って飛んでいる。その……上下逆さまに、ではあるが——器用だ。
そんな彼女が、底抜けに明るい笑顔を浮かべて、オレにまとわりついてくる。じゃれついてくる仔犬のようだ。ってもみあげ引っ張るな。痛いって。
伸びないって! おもちゃじゃない!