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Web特別書き下ろしショートストーリー「走れ、沖!」

第三章

にもかかわらず。

伊都夏大学園校内新聞はこう書くのである。
「対決、魔女喫茶VSメイド喫茶!」と題された記事はこう書くのである。

「魔女たちの魔女喫茶と生徒会執行部のメイド喫茶のアピール力は互角。だが、メイド喫茶が、魔女喫茶に並ぶためには、一つ欠けているものがある。その魅力を最大限に引き出すためのバストだ。所詮、女は乳次第だ。
ああ、哀れ、生徒会。無乳女を頭に頂いては、魔女・ガーネットの無限質量の前には無力。ああ、哀れ、無乳。たとい、その身にいくら大和魂を宿そうと、資源不足は補えぬ。学園祭当日には、魔女・ガーネットの物量の前に、執行部員は為す術もなく蹂躙され、メイド喫茶は焦土と化し、生徒会は未来永劫、カルデアに従属することになるであろう。(日下部)」

——負ける。

負けるというのか、生徒会が。
乳。
乳がそんなに重要だというのか。
無乳。
沖のことであろう。
それは、わかっている。わかりたくはないが、わかっている。
孫子に曰く「敵を知り己を知れば百戦危うからず」。
ないものをあると言い、できないことをできると言って、無謀な戦をしかけて国を滅ぼしたかつての旧軍のような思考とは、沖は無縁である。
だから、事実は、まず、事実として認めた。

[挿絵]「走れ、沖!」 沖には乳がない。

比喩ではない。
小さいとか、控えめとかではない。
本当にない。ないと言ったら、ない。ないないない。
月の水、山梨の海、作家・大樹連司の将来性と同じように、まったくもって存在しない。
背中と胸が平行線。まな板。洗濯。断崖絶壁。ミス・ノーバディー。
それが、沖である。

だが。
それが——それがゆえに、負けるというのか。
あの魔女どもに——ガーネットに——。
たしかにガーネットの胸は大きい。
その大きさたるや沖の無限倍(ゼロはいくつをかけてもゼロ)である。
それゆえに、負けるというのか、生徒会が。
これまでの努力が、たかだか胸の差によって水泡に帰すのか。
大きければいいと言うのか。
デカくてカルデアの飯を食っていれば偉いというのか。
怒りに手を震わせながら、けれども沖は自分が動揺しているのがわかる。
わかるのだ。
日下部の記事が、真実であることが。
男はみな、乳が好きなのだ。
乳の大きな女が好きなのだ。
生徒会執行部の一員である、宮本を見ればわかる。
いつもオッパイオッパイと盛りの付いた犬のごとく走り回っているではないか。
では、沖は、ガーネットに勝てないのか。
いいや、そんなことはない、と沖は、首を振る。
こればかりは認めるわけにはいかぬ。
沖には胸がない。だが、絆がある。
沖には生徒会の仲間たちがいる。
考えてもみよ。
あの宮本とて、生徒会の一員として沖に尽くしてくれているではないか。
この絆は、胸の大きさを超えるのだ——。
きっと、絆こそは——。

そして、沖は、その記事の最後の一文に釘付けになる。

生徒会と魔女に詳しいT・Mさんの話
「ガーネットさんは! あの太股で! あの尻で! あの乳で! ジャージブルマーで魔女なんだ! ジャージブルマーなんだ! ジャージブルマーなんだ! ジャージブルマーなんだ!(大事なことなので3回言いました)」

T・M——T・M——たけし……たけし・みやも……

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